企画段階からπ-A1規格を念頭に置いて設計された「AVIOT DAC 01」は、バランス出力にも対応したヘッドホンアンプ/DACボードです。今回、開発プロジェクトの陣頭指揮にあたった海上 忍さんと、回路設計および音質デザインを担当したEYEさんに、DAC 01のコンセプトとこだわりについて訊いてみました。

— そもそも、DACボードを開発しようとした理由は?

海上:π-A1規格を提唱しても、対応製品が世に出なければ意味がありませんよね。それじゃあ、リファレンスになる製品を用意しようと立ち上げたのが、アルミ削り出しケース「AVIOT CASE 01」の開発プロジェクトです。シングルボードコンピュータと拡張ボード(HATs)の間に、銅製ノイズシールド兼ヒートシンクを挟み込める構造にするなど、機構設計はこだわり抜きました。前面/側面の金属板を交換すればいろいろな拡張ボードを搭載できるというπ-A1規格の特長を抜きにしても、オーディオグレードの金属ケースとして他に類のない製品に仕上がっていると自負しています。

どうせならCASE 01の特長をフルに生かした拡張ボードも欲しいよね、ということで始まったのが「AVIOT DAC 01」開発プロジェクトです。CASE 01に搭載することを前提に設計していますから、ボード下部に実装したパーツが銅製ノイズシールドに干渉することはありませんし、前面/側面の金属板が付属しているので、CASE 01と一体のシステムとしてお使いいただけます。

CASE 01組み込み時の内部構造

— DACチップにPCM5122を採用した理由は?

海上:すでにRaspberry Piでオーディオを楽しむコアな方ならご存知でしょうが、PCM5122を採用したDACボードはいくつも存在します。それでも敢えて選択したのは、このチップの「手堅さ」でしょうか。トランジェント性能はかなり高く、低域から中高域まで一貫したレスポンスの鋭さを持ちます。デルタシグマ変調の直前に8倍のオーバーサンプリング処理を施しローパスフィルタの効果を得る、デジタルフィルタの効果もあります。ドライバはオープンソース化されカーネルに標準装備されており、どのディストリビューションでも動くという扱いやすさも考慮しました。

DACチップが音質を大きく左右することは確かですが、クロックや電源周りのデザインで最終的な音の印象は一変します。アナログ波を扱う最終段、たとえばオペアンプの特性も音質に大きく影響します。DAC 01はヘッドホンアンプでもありますから、パーツ選定を含めた音質チューニングを念入りに行わなければ、満足できる音は得られません。

— DACチップは音を決める重要な要素ではあるものの、それだけで音質が決まるわけではないということですね。具体的には、どのパーツにこだわりましたか?

海上:PCM5122はよくできたDACチップで、ほかにいくつかのパーツを実装した程度で”音を出す”ことが可能です。マスタークロックを自前で生成することすら可能ですものね。世にPCM5122搭載のDACボードが多い理由はここにあります。しかし、それが”いい音”かというと、どうでしょう? ジッター抑制には外部の水晶発振器を使用したほうが有利ですし、コンデンサーや抵抗による影響も見逃せません。官能評価こそがレゾンデートルのデバイスですから、HATsという狭い土俵の上でPCM5122の真の実力を引き出すべく、あらゆるパーツを吟味しました。OS-CON、MELF抵抗、水晶発信器……いろいろ候補があった中で決定しているのです。結果として、それなりの価格設定にせざるを得ませんでしたが。

DACチップ以外のパーツにも強いこだわりが

— 外部クロックについてはいかがでしょう?

EYE:日本電波工業製の低位相雑音水晶発振器を2系統(22.5792MHz/44.1kHz系、24.576MHz/48kHz系)搭載しています。49.152MHzと45.1584MHzを使用する場合は、DACに送る分周比の設定を変更する必要があるため、24.576MHzと22.5792MHzを使用するほうがソフトの面からベターという判断です。位相雑音の観点からも、一般的に周波数が低いほうが位相雑音が低いため、24.576MHzと22.5792MHzを選びました。Raspberry PiはDAC 01に対しスレーブの関係で動作しますから(DAC 01はRasberry Piに対しBCKとLRCKを出力、Raspberry PiはDAC 01に対しDATAのみ出力)、水晶発振器の特性を生かした低ジッター再生を実現しています。

— そういえば、電源をDACボード側から入力するスタイルに驚きました。

海上:はい、Raspberry Pi上のスイッチングレギュレータが発するノイズの影響を無視できず、より質のいい電源をDAC 01上に用意しました。GPIO経由でRaspberry Piに5Vを供給しますから、HDMI端子の横にあるmicro-B端子を使う必要はありません。

EYE:DAC 01には、音質とコストの両面を評価し、より高性能なTIの可変型3端子レギュレータ「LM317」を採用しました。1.5Aの電流制限機構が内蔵されており、ユーザーが誤った使い方をして下流で電源が短絡するようなことがあっても、ここで出力をカットしますので、下流の発熱による発火と上流のDC-DCコンバーターやモバイルバッテリーを過電流から保護します。

DAC 01と同梱品

— 電源に相当なこだわりがあるようですね。

EYE:LM317はNPNトランジスタで構成されているため、LDOで使用されるPNPトランジスタよりも出力インピーダンスが低くなり、音楽信号のように負荷変動の大きな電源に適しています。基準電圧部の端子が露出していますから、ここにデカップリングコンデンサを追加すれば、固定電圧のタイプよりリップル除去比を高くできます。

オペアンプ用電源は、音質改善と保護回路の役割を持たせる狙いで、±8Vに昇圧した電圧を±6.5Vに降圧しています。音質改善に関していえば、DC-DCコンバーターで昇圧した電源をリニアレギュレーターでさらに安定化することで、電源のノイズ除去と出力インピーダンスを下げています。オーディオ機器や微小信号の測定系回路でもよく使われる手法ですね。

— オペアンプについて教えてください。

EYE:TIの「OPA1688」を採用しました。アンバランス出力系で1基、バランス出力系でL/R用2基の計3基を搭載しています。このオペアンプはほぼヘッドホンアンプ用として設計されており、高級オペアンプとして知られているTPA6120A2より設計が新しく、コストと静特性の面でも上回っています。私見ですが、TPA6120A2は解像度はあるもののやや平坦な印象で、OPA1688のほうにより音楽の躍動感を覚えました。

— そういえば、DAC 01にはゲインスイッチがありますね?

EYE:はい、ユーザーが直接操作するスイッチによる0dB/-12dBの切り替え回路を搭載しています。ゲインの切り替えは、アンバランス出力の場合、DAC出力を抵抗分圧する方式とアンプのゲインを切り替える方式を併用します。これは、抵抗分圧で下げたゲインをまたアンプで上げるといったS/N比を犠牲にする経路にしないためです。バランス出力の場合、DACの出力を抵抗分圧する方式です。DAC出力のS/N比は犠牲になりません。

— ここに注目してほしい、という点はありますか?

海上:ひとつは、2.5mmバランス(BTL出力)の音です。Raspberry Pi向けのヘッドホンアンプでバランス接続に対応した製品は、現状このDAC 01だけのはず。3.5mmアンバランスの音と聴き比べれば、左右の分離感がまるで異なることにすぐ気付くと思います。この2つの端子は、beyerdynamic T1など駆動に高い電圧が必要なヘッドホンも余裕で駆動できますから、ぜひ試していただきたいですね。ゲインを切り替えると、能率が高いIEM系のイヤホンも違和感なく使えますよ。

もうひとつは、CASE 01と組み合わせたときの一体感でしょうか。デザインだけでなく、銅製ノイズシールドの効果も実感していただけると思います。この組み合わせで音質チェックしていますし、むき出しの状態や樹脂製ケースでは我々の意図しない音になることも確認しています。

さらにもうひとつ、重要なことが。100時間ほど通電(エージング)してください! 3基搭載しているOS-CONは、はんだ付けによる熱ダメージから本来の性能が回復するまでに100時間ほどかかるとされていますから。実際、使いはじめと100時間経過後では、音の印象、特に中高域の印象がかなり変わります。

— 設計段階から「π-A1」規格を意識したこと以外にも、相当なこだわりをもって設計に臨まれたことがよくわかりました。本日はありがとうございました。

【インタビュー/執筆:Sinden1号】

DAC 01をCASE 01に組み込んだところ

製品名DAC 01
適合するシングルボードコンピュータRaspberry Pi 2 Model B、Raspberry Pi 3 Model B
DACチップBurrBrown PCM5122(最大384kHz/32bit)
クロック22.5792MHz(44.1kHz系)と24.576MHz(48kHz系)各1基
ヘッドホン出力3.5mm ステレオ・アンバランス出力(LINE出力兼用) L/Rグランド分離 70mW(32Ω)、6mW(600Ω)
2.5mm 4極 ステレオ・バランス出力 180mW(32Ω)、25mW(600Ω)
電源USB micro-B 5V(DAC 01からRaspberry Piに電力を供給)
基板サイズ約65mm×約56mm×約15mm(GPIOソケット部を除く)
その他ゲイン切替機構(Low -12dB、High 0dB)
付属品アルミ製交換パネル(フロント/サイド各1)、ゲイン切替つまみ
重量約28g
価格16,880円(税別)